2025年7月16日未明に石巻で最大風速16.9m/s(南東)の大風が観測された。最大瞬間風速は25.8m/s(南南東)で、いずれも同日の全国1位となる大きな値であった。台風5号が東北の太平洋沖を北上していったのは14日のことで、この台風の影響ではなさそうである。

天気図を見ても宮城県付近に低気圧は描かれていない。しかし実際には天気図に現れない小さな低気圧が発生していたとみられる。その低気圧は上空に暖気核を持っていて通常の温帯低気圧とは少し違う性質のようだ。

こちらが16日1時の国土交通省XRAINのレーダー画像。
宮城県北部に何やら明瞭な渦巻が見られる。渦巻の両端がちょうど仙台市と気仙沼市に掛かっているので、直径は90~100kmくらいということになる。別のレーダー画像では、まるで台風の目のように中心があって対称な円形を表現しているものもあった。15日午前のウェザーニューズ社のリリースでは、小笠原近海で小さな熱帯低気圧が発生し北上することが示唆されていた。この渦巻の正体は小笠原近海で発生し北上してきた小さな熱帯低気圧ということなのだろう。この渦巻はその後岩手県宮古市付近まで進み海上へ抜けていった。

こちらは当地での降水強度を表したグラフ。それほど強い降り方ではないが強弱を3回繰り返したことが見て取れ、1時間換算した場合にやや強い雨に相当する降水があった。これだけならにわか雨でもあったのかなで終わりなのだが…。

気圧のグラフを見ると1時頃を底としたきれいな漏斗状になっている。しゅう雨の時によく見られる突発的な気圧上昇はなかった。

16日1時の気象官署の気圧値を元に作成した天気図。
1006~1009hPaまで1hPaごとに等圧線を引いてみたところ、宮城県東部付近に1006hPaの閉じた等圧線が現れた。宮城県では気圧傾度が大きくなっていた。
大風の気圧配置的要因は隠れた熱帯低気圧にありそうだが、観測所の立地も重要な要素だろう。今回に限らず石巻では普段から風速が大きくなりやすい。特に東寄りや南寄りの風向の時に周囲よりも大きな値が観測される印象がある。東寄りの時には牡鹿半島にかけての高地を吹き降りるおろしのような格好に、南寄りの時には仙台湾を吹走してきた風がダイレクトに流入する。そしてもとより宮城県は奥羽山脈から吹き降ろす西寄りのおろしが特徴の場。石巻はほぼ全方角からの強風を網羅する県内一の強風地帯となっている。さらに石巻はかつては有人の測候所だったため、観測環境は一般のアメダス地点よりもかなり整備されている。観測所の在る場所は商業施設が立ち並ぶ市街地からは少し離れた高台となっていて、しかも風速計の設置高は地上から28m、一般に10mほどの他のアメダスよりも圧倒的に高い。地表の摩擦の影響が小さく風が直撃するのだろう。市街地でも風は確かに強い。しかし観測される値はその体感よりも一段と大きな値という感じがする。


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